大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高知地方裁判所 昭和61年(ワ)633号 判決 1989年5月31日

原告

庄司福美

右訴訟代理人弁護士

斎藤正義

苦田文一

被告

日本道路株式会社

右代表者代表取締役

清水弘

右訴訟代理人弁護士

大西周四郎

大西昭一郎

被告

西川建設株式会社

右代表者代表取締役

西川義繁

右訴訟代理人弁護士

小松幸雄

被告

株式会社五條

右代表者代表取締役

溝口邦尋

被告

岡村亀喜

右被告株式会社五條同岡村亀喜訴訟代理人弁護士

岡村直彦

主文

一  被告らは原告に対し、各自三三三五万〇七七二円及び内三〇三五万〇七七二円に対する昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

1  被告らは原告に対し、各自七二二一万二三九五円及び内六六二一万二三九五円に対する昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求める。

第二  主張

一  請求原因

1  事故の発生

被告日本道路株式会社(以下、被告日本道路という)が元請、被告西川建設株式会社(以下、被告西川建設という)が下請、被告株式会社五條(以下、被告五條という)が孫請として各受注し、施工していた高知県香美郡野市町一九一六番地一、東左古シナノ宅地造成工事現場(以下、右工事現場を本件工事現場と事故発生現場を本件事故現場という)において、昭和六〇年八月三〇日午後一時五〇分ころ、被告五條の掘削機運転手である被告岡村亀喜(以下、被告岡村という)は、掘削機を操作中、掘削機の先端に取り付けられているバケット部分を小松建夫に激突させ、同人は左右肋骨骨折、心臓破裂、頭蓋骨骨折などの重傷を受け、同日午後三時二五分死亡した。

2  責任原因

(一) 全被告の不法行為責任

本件事故は、被告岡村が、被告五條の下請工事自体又はその延長上にある工事の執行として掘削機を操作中発生したものであるが、付近で小松建夫が作業中であったのであるから、被告岡村は、四囲の状況に留意して小松建夫の安全を確認し、危害を及ぼすことのないように掘削機を操作すべき注意義務があるのに、これを怠った過失により、掘削機の先端に取り付けられているバケット部分を小松建夫に激突させたものである。

ところで、被告日本道路は、本件工事現場に事務所を設置して、作業所長薄田秋二ほか技術職員を常駐させ、同人らをして被告西川建設等下請業者及び更にこれから発注を受けた被告五條等いわゆる孫請業者及びその従業員らに対し、工事上の指図をし、その監督の下に工事施行に当たっていたものであり、被告西川建設は、右のとおり被告日本道路の指図監督の下に、自社従業員のほか被告五條等の自社の下請業者及びその従業員らに対して工事上の指図をし、その監督の下に工事を施行していたものであるから、被告岡村は、被告五條の被用者であると同時に被告日本道路及び被告西川建設の被用者と同視すべき地位にあった。

そこで、被告岡村亀喜は、民法第七〇九条により、被告日本道路、同西川建設、同五條はいずれも民法第七一五条により、小松建夫の死亡により生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告日本道路の責任

仮に、被告岡村が被告日本道路の被用者と同視すべき地位になかったとしても、本件事故は、被告岡村が被告西川建設の技術職員市原一統らと掘削機のバケットに小松建夫を乗せ、上下させながら計測した後、掘削機を移動させようとしてバケットを操作中発生したもので、掘削機作業中を通じ、誘導者による誘導もなかったが、これらは労働安全衛生規則第一五八条、第一六二条、一六四条に違反する所為であるところ、被告日本道路の現場所長薄田秋二は、被告西川建設、同五條の従業員や被告岡村に対し、安全衛生教育を徹底し、また、見回りを強化するなどし、下請、孫請の労働者の作業実施の実態を確実に把握して、危険で違法な、また不注意な作業実施をさせないよう配慮する注意義務があったのに、これを怠った過失により、右のような違法な作業がなされるのを看過し、本件事故を発生させたものであるから、被告日本道路は、右薄田秋二の使用者として民法第七一五条により、小松建夫の死亡により生じた損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告西川建設の責任

仮に、被告岡村が被告西川建設の被用者と同視すべき地位になかったとしても、本件事故は、被告西川建設の技術職員である市原一統が被告岡村や小松建夫を指揮して前記危険違法な作業を実施し、あるいはこれを認容して作業せしめた過失により本件事故を発生させたものであるから、被告西川建設は右市原一統の使用者として民法第七一五条により、小松建夫の死亡により生じた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 逸失利益

五一八五万九三九五円

小松建夫は、昭和二九年六月二九日生まれで死亡当時三一歳の健康な男子であったから、本件事故がなければ少なくとも満六七歳までの三六年間は稼働し得たものである。

小松建夫は、本件事故当時、被告西川建設に勤務していた者であるが、昭和五六年当時の三一歳男子の平均賃金は一か月三〇万四五〇〇円であるから(昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の年齢階級別平均給与額を1.0701倍したもの)、控除すべき生活費を三割とし、中間利息の控除につき新ホフマン係数20.275を乗じると小松建夫の逸失利益は五一八五万九三九五円となる。

計算式 304,500×12×(1−0.3)×20.275=51,859,395

原告は、小松建夫の母であり、右損害賠償請求権を相続した。

(二) 慰藉料 二五〇〇万円

小松建夫は、健康な男子であり、原告の精神的、経済的な支えとなって、これを扶養していた者であるが、本件事故により無残にも生命を奪われたことによる慰藉料は二五〇〇万円をもって相当とする。

(三) 弁護士費用 六〇〇万円

原告は、本件訴訟を原告代理人に依頼したが、その費用は六〇〇万円である。

4  損害の填補

原告は、労働者災害補償保険から遺族特別支給金として三〇〇万円、同保険の遺族補償年金前払一時金として七六四万七〇〇〇円の合計一〇六四万七〇〇〇円の支払を受けたので、右金員を損害の一部に充当する。

5  結論

よって、原告は、被告ら各自に対し、損害残金七二二一万二三九五円及び内弁護士費用を控除した六六二一万二三九五円に対する本件事故発生日である昭和五六年八月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告日本道路)

1 請求原因1のうち、請負契約関係、事故日時、事故の概要は認める。

2(一) 同2(一)のうち、被告日本道路が本件工事現場に現場事務所を設置していたことは認めるが、その余の事実は争う。

被告日本道路は、工事は被告西川建設に一括下請し、被告日本道路としては、本件工事の設計、工期等につき契約どおり施行されているかを管理していたにすぎず、作業従事者の作業方法、重機の運転、工事の具体的安全管理について指揮監督していたものではない。現場における孫請けたる被告五條の被用者の作業について具体的指揮命令はなしていないので、被告岡村が被告日本道路の被用者と同視しうる地位にあったとはいえないし、また、その行為が被告日本道路の事業の執行についてなされたものといえず、民法第七一五条の責任はない。

(二) 同2(二)については、被告日本道路は、労働安全衛生法第一五条により、現場事務所を設置して右規定を遵守していたものである。

3 同3の事実は否認する。

4 同5は争う。

(被告西川建設)

1 請求原因1のうち、事故発生状況は争うが、その余の事実は認める。

2 同2は、被告西川建設の損害賠償責任を否認し、その余は争う。

3 同3の事実は否認する。

4 同4のうち、原告が労災保険から一〇六四万七〇〇〇円を受領したことは認めるが、その余は争う。

(被告五條、同岡村)

1 請求原因1のうち、被告日本道路が元請、被告西川建設が下請、被告五條が孫請として各受注し、施工していた本件事故現場において、昭和六〇年八月三〇日午後一時五〇分ころ、被告五條の掘削機運転手である被告岡村亀喜が掘削機の操作中、掘削機の先端のバケット部分と小松建夫とが激突し、同人が死亡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 同2は争う。

本件事故は、小松建夫の過失によって発生したもので、被告五條、同岡村に損害賠償責任はない。即ち、被告岡村は、本件掘削機を移動させるに当たって、小松建夫のすぐ側に行き、掘削機を移動させることを知らせ、同掘削機の運転席に戻り、エンジンをかけ、そこから小松建夫の位置を確認し、同人が掘削機の先端のバケット部分から約一メートル先で丁張りに使用した糸を巻いていたので、バケットを上げながら旋回させたところ、小松建夫が右バケットの運動範囲内に入ってきて本件事故が惹起されたもので、被告岡村には過失がない。

また、被告岡村の本件掘削機運転行為は、被告五條の被用者としての業務執行に当たらないから、被告五條は民法第七一五条の責任を負わない。即ち、本件事故は丁張り作業の終了時に生じたものであるところ、右丁張り作業は被告西川建設の工事であり、被告五條の請負工事の範囲外にあったところ、被告岡村が被告西川建設の従業員であった小松建夫から依頼されてたまたま丁張り作業を手伝ったものであるから、被告岡村は、被告五條の従業員としてなしたものではなく、また被告五條の業務の執行としてなしたものでもない。

3 同3のうち、小松建夫が本件事故当時被告日本道路に勤務していたこと、原告が本件を原告代理人らに委任したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4 同4のうち、原告が労働災害補償保険から遺族特別支給金として三〇〇万円、同保険の遺族補償年金前払一時金として七六四万七〇〇〇円の合計一〇六四万七〇〇〇円の支払を受けたことは認めるが、その余の事実は争う。

二  抗弁

1  選任監督上の相当な注意(被告五條)

被告五條は、被告岡村を雇い入れるに際し、被告岡村が建設業労働災害防止協会高知支部から交付を受けている車両系建設機械運転手技能講習終了証を呈示させ、また毎月一回安全会を、更に本件請負工事現場においては、被告日本道路、被告西川建設との三社で合同で安全ミーティングを開催するなどして、常に被告岡村に対し事故防止について注意を与えるなどしてきたのであるから、被告岡村の選任監督につき相当の注意をはらっているということができる。

2  監督上の相当な注意(被告日本道路)

仮に、被告岡村の行為が被告日本道路の事業の執行につきなされたものと評価される場合には、被告日本道路は、その事業の監督につき相当の注意をなしていたから、本件事故に責任を負うべき理由はない。

3  過失相殺(被告五條、同岡村、同西川建設、同日本道路)

仮に、本件事故につき、被告岡村の過失があるとしても、小松建夫にも、被告岡村が掘削機を移動させることを知りながら、同掘削機のバケットの運動範囲内に自ら入ってきたもので、同人にも重大な過失があり、その過失は損害算定に当たって考慮されるべきである。

三  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、被告岡村が車両系建設機械運転手技能講習証の交付を受けていたこと、本件請負工事現場においては、被告日本道路、被告西川建設、被告五條の三社がミーティングをしていたことは認めるが、右ミーティングの内容は不知。その余の事実は否認する。

2  抗弁2及び3の各事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一事故の発生

1  被告日本道路が元請、被告西川建設が下請、被告五條が孫請として各受注し、施工していた本件工事現場において、昭和六〇年八月三〇日午後一時五〇分ころ、被告五條の掘削機運転手である被告岡村亀喜が掘削機の操作中、掘削機の先端のバケット部分と小松建夫とが激突し、同人が死亡したことは当事者間に争いがない。

2  <証拠>によれば、被告西川建設は被告日本道路から本件工事現場の工事を請負い、右請負工事の一部を被告五條に孫請させ、被告五條は掘削機を持ち込み、掘削工事をしていたこと、被告西川の測量技師市原一統及び作業員小松建夫は昭和六〇年八月三〇日の午後、いわゆる床掘りのなされた深さ約2.5メートル、巾約二メートルの溝状の本件事故現場内で、いわゆる丁張りと称する計測作業をしていたこと、そして、その丁張り作業の能率を図るため、被告五條の重機運転手岡村に助力を求め、被告岡村が被告五條の掘削機を運転して、その先端のバケット部分に小松建夫を乗せて持ち上げ、同人が右バケット部分から糸を垂らすなどして作業したこと、その終了後、被告岡村が、掘削機のバケット部分から小松建夫を降ろし、自分も一旦掘削機の運転席から下りて、小松建夫に近付き「もう済んだかよ」と声をかけたところ、小松建夫がこれに右手を挙げて答えたので、作業は終了したものと考えて運転席に戻り、右掘削機を他の作業所に移動させようとしてそのエンジンをかけ、運転席の西側に掘削機を旋回させるべく、その方向を見ながらバケットを旋回させたところ、掘削機に接近していた小松建夫を掘削機先端のバケット部分と溝の側面とで挾み、左右肋骨骨折、心臓破裂、頭蓋骨骨折等の傷害を与えて死亡させたことの各事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

二被告岡村の責任

右認定の事実に鑑みるに、被告岡村は、その運転する掘削機のバケット部分を旋回させるに当たっては、その付近に小松建夫がいることを知っていたのであるから、掘削機の運動範囲内を十分注視し、安全を確認して、掘削機を運転し、これによって人を傷つけることのないようにする注意義務があったのに、右安全確認義務を怠り、掘削機に接近した小松建夫を、掘削機の先端バケット部分と溝の側面で挾み、これによって同人を死亡させたものであるから、被告岡村に民法第七〇九条の不法行為責任があることは明白である。

三被告五條の責任

1  被告五條は被告岡村の使用者であり、被告岡村は被告五條の事業の執行につき本件事故を惹起したものといいうるから、被告五條は、民法第七一五条により損害賠償責任を負うというべきである。

被告五條は、本件事故は被告五條の事業の執行について生じたものではないと主張するが、前述のとおり、本件事故は、被告五條の掘削機により生じたもので、これを他の作業場所へ移動しようとした際に発生したものであるから、被告五條の事業の執行中に生じたものということができる。

2  被告五條は、被告岡村を雇い入れるに際し、被告岡村が建設業労働災害防止協会高知支部から交付を受けている車両系建設機械運転手技能講習終了証を呈示させ(被告岡村が右終了証の交付を受けていたことは争いがない)、また毎月一回安全会を、更に本件請負工事現場においては、被告日本道路、被告西川建設との三社で安全ミーティングを開催するなどして、常に被告岡村に対し事故防止について注意を与えるなどしてきたのであるから、被告岡村の選任監督につき相当の注意をはらっていると主張するが、その主張の事実があったとしても、前述のとおり、被告岡村は本件掘削機をその用途外に利用していたことが認められるのであって、これからすれば、被告五條がその業務の執行につき監督上相当な注意義務をはらったものとは認め難いところであり、被告五條の抗弁は理由がない。

四被告西川建設の責任

前記認定事実によれば、被告西川建設はその請け負った作業に関する丁張り作業をなすに当たり、被告岡村の助力を求めて、同人に掘削機を運転させ、そのバケット部分に小松建夫が乗るなどして作業をなし、その作業の終了直後、被告岡村が掘削機を移動させる際に、本件事故を生じたもので、本件事故時、被告西川建設の指揮監督関係が被告岡村に対し直接及んでおり、被告岡村は被告西川建設の被用者と同視しうる地位にあったと認められ、これによれば、被告西川建設は、民法第七一五条により損害賠償責任を負うというべきである。

五被告日本道路の責任

1<証拠>によれば、被告日本道路は、本件工事現場の土地造成工事を五大海運株式会社から請負い、その内本件工事現場外周の測量、水道工事、道路舗装を除く工事を被告西川建設に一括下請させたが、被告西川建設に対し、右工事現場における責任者や法律上義務付けられた有資格者の氏名はもちろん、工事現場において使用する一日当たりの平均作業員数、作業員に対する賃金の支払方法、被告日本道路が工事の適正な施工を確保するために必要と認めて指示する事項、並びに再下請負人及びその責任者の氏名住所、再下請工事の種類内容工期、その一日当たりの平均作業員数、その他必要な事項等の通知をさせ、被告日本道路と被告西川建設との工事下請基本契約書には、被告日本道路の作業所長が、工事現場を総括し、被告西川建設を指揮監督するとし、また、その検査に合格した工事材料を使用させ、また工事用機器について適当でないと認めたものがあるときはその交換を求めることができるなどと規定していること、そして、被告日本道路は、本件工事現場に、被告日本道路のみを施工業者として表示する看板を掲げるとともに現場事務所を設置し、右下請基本契約書に基づき、その従業員である薄田秋二及び青山郁夫を常駐させ、薄田秋二を作業所長兼元方安全衛生管理者とし、薄田秋二は、一週間ごとに工程表を作成して下請会社、孫請会社に配布するほか、毎日右事務所に下請会社、孫請会社の責任者を集めて工程及び安全上の打合せを行ない、各下請会社の工事日報に基づき、その日の作業人員、作業車両の種類、台数を把握し、作業手順を確認し、施主の意向による工事の変更が生じたときはこれに伴う作業の変更を指示し、台風接近の折りは工事の中止及び再開を指示し、また工事が予定より遅延したときはその回復を指示するなど、全般的に作業の進捗状況を管理し、毎日一回以上は本件工事現場の巡視をし、作業員のヘルメットの着用の不備、掘削機等重機の安全確認、その作業位置等、気が付いた点については、下請会社の責任者を通じ、或いは直接作業員に改善を指示し、更に安全管理として月に一回は下請、孫請等の作業員を集めて安全大会と称する会を開き、各種の注意をしていたことを認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

2 そこで、右事実に鑑みるに、被告日本道路は、本件工事現場に事務所をおき、作業所長を常駐させるなどして、工事全般に亘ってその工程を管理し、作業状況、工事の進捗状況を常に把握して、必要に応じ、被告西川建設、同五條やその作業員に工程管理上、安全管理上の指示をなしていたものであり、被告日本道路は下請人、孫請人を直接間接に指揮監督し、被告岡村にもその指揮監督関係が直接間接に及んでいたということができる。してみれば、被告岡村は実質的に被告日本道路の被用者と同視しうる関係にあり、その本件事故は被告日本道路の事業の執行に関してなされたものということができ、被告日本道路は被告岡村の不法行為につき民法第七一五条により責任を負うべきである。

3 また、被告日本道路は、その事業の監督につき相当の注意をなしていたので責任がないと主張するところであり、前述のとおり、作業所長薄田秋二において、毎日打合せを行ない、月に一回は安全大会を実施し、また毎日巡視していたことを認めることができ、前掲の丙第二号証によれば、重機の用途外使用についてもしばしば注意がなされていたことを認めることができるが、しかし、前述のように、現に本件事故現場で掘削機の用途外使用がなされていたことを認めることができるのであって、その監督はなお徹底していなかったといわざるを得ず、被告日本道路が事業の執行につき相当な注意をなしたとは認めることができず、その抗弁は採用できないところである。

六損害

1  逸失利益

<証拠>によれば、小松建夫は、昭和二九年六月二九日生まれで死亡当時三一歳の健康な男子であったから、本件事故がなければ少なくとも満六七歳までの三六年間は稼働し得たもので、少なくとも男子の平均賃金程度の収入は得ることができたものと認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

そして、本件事故の発生した昭和六〇年当時の三一歳男子の平均年間給与額は、四〇〇万一八〇〇円であることは公知のところ、三六年間を通じて控除すべき生活費を五割とし、中間利息の控除につき新ホフマン係数(20.275)を乗じると、次の計算式のとおり、小松建夫の逸失利益は四〇五六万八二四七円(一円未満切捨)となる。

計算式 4,001,800×(1−0.5)×20.275=40,568,247

<証拠>によれば、原告は小松建夫の母であり、他に小松建夫の相続人はないと認められるので、原告は、小松建夫の相続人として、その損害賠償請求権を相続したものということができる。

2  慰藉料

前記認定の事故の発生事情、態様、原告の母としての立場など諸般の事情を勘案すると、原告の精神的損害を慰藉するには一八〇〇万円をもって相当とする。

七過失相殺

<証拠>によれば、小松建夫は、被告西川建設の作業員をしていたものであり、本件工事現場では重機の安全についてはしばしば注意されていたこと、更に本件事故の直前まで本件掘削機を利用して作業していたもので、被告岡村が掘削機を移動させることを知っていたものと認められるところ、これによれば、小松建夫が掘削機のバケットの運動範囲内に入ったことについては、過失があること明白であり、被告岡村の過失等諸般の事情を考慮すると、被害者側の被った損害につき三割の過失相殺をするのが相当である。

そうすると、損害の額は四〇九九万七七七二円(一円未満切捨)となる。

八損害の填補及び弁護士費用

1  原告が、労働者災害補償保険から遺族特別支給金として三〇〇万円、同保険の遺族補償年金前払一時金として七六四万七〇〇〇円の合計一〇六四万七〇〇〇円の支払を受けたことは、原告が自認しているところである(被告西川建設、同五條、同岡村との間では争いがない)。

そこで、これを控除すると損害金残額は三〇三五万〇七七二円となる。

2  原告が本件訴訟を原告訴訟代理人らに委任したことは争いがないところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと、原告が本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、三〇〇万円とするのが相当である。

九結論

以上によれば、被告らは各自、原告に対し、三三三五万〇七七二円及び内三〇三五万〇七七二円に対する昭和六〇年八月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払をすべき義務があるというべきであるから、原告の本訴請求を右支払を求める限度で認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官松本哲泓)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例